さよなら長府水族館



山口県下関市長府土居の内町1-6 長府支所内
長 府 観 光 協 会
TEL 083-241-0595 FAX 083-246-1130


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「旧下関水族館ありがとうそしてさようならセレモニー」にて

さようなら長府水族館

直木賞作家 古川 薫

周防灘を見はるかす高台に私は住んでいます。

眼下の森の中に長府水族館の

白いコンクリートの箱がおさまっているのが見えます。

水族館のそばの小さな山は、

むかし関見台と言い、

瀬戸内海を下りてくる海賊船の動きを見張る展望台でした。

関門海峡に侵入する黒船を警戒する

奇兵隊の見張台だったこともあります。

その関見台に、

今は鯨館があるのです。

それは巨大な海の王者の実物大の建物ですが、

家の裏庭に立つ私の目には、

メダカほどの大きさに見える可愛い鯨です。

体を弓なりに反らせ、

周防灘に向かって吼えているメダカ鯨の雄姿を、

私は朝夕ながめて暮らしておりました。

鯨は吼えるのでしょうか。

WHALEだから吼えるのだ。

でも私は関見台のメダカ鯨の吼えるのを

聞いたことがありません。

鯨の代わりに吼えているのは

水族館のアシカ君。

深夜、水槽の魚たちも、私も眠っているとき、

声をそろえて長府の静寂を震わせるのです。

アシカは遠い太平洋のふるさとが恋しくて、

あのようにも悲しげな声で吼えるのですか。

しかし私はそれを聞きながら、

海のそばの水族館の近くに住んでいるのだなぁと思い、

その牧歌的な夜の空気に慰められて

ふたたび眠りにつくのでした。

長府水族館がその務めを終えたように、

20世紀の終わりとともに、

私のそばを離れて行く。

惜別の情をこめて、

きょうの深夜は私が吼えましょう。

さようなら長府水族館


*平成12年12月3日に行われた「さようならセレモニー」において、直木賞作家古川薫先生が水族館に贈るメッセージとして朗読されたものです。尚、ページ作成には「さようなら下関水族館記念事業実行委員会」並びに「下関水族館」のご協力を受けて作成しております。